東京高等裁判所 昭和31年(う)1205号 判決
被告人 金允先
〔抄 録〕
弁護人の論旨第一点及び被告本人の論旨中量刑不当を主張する部分を除くその余の部分について。
原判決は、被告人が所轄税務署長の免許を受けないで、第一、昭和三十年八月十三日頃(起訴状の記載その他関係証拠に比照し右十三日は十二日の誤記であることが明瞭である。)肩書自宅で米約九升、米麹約三升、水約二斗四升を原料として仕込み発酵させてその頃アルコール分十一度の濁酒約三斗三升を製造し、第二、同月十二日頃前同所で米約八升、米麹約二升及び水約二斗を原料としてアルコール分十一、四度のもろみ約二斗七升を製造し、四月十七日頃右もろみのうち約九升を濾過して水を加えアルコール分平均八度の清酒一斗七合を製造したと併合罪の関係にある二個の酒類の密造の事実を認定していること洵に所論の指摘するとおりである。ところで、原判決挙示の証拠に当審でした検証の結果、証人山下光男、同嶋津泰造、同原田広八の各尋問の結果を参酌考察すれば、被告人は、被告人家において昭和三十年八月十八日祖先の法事を営みそれに列席する親族等に接待するために所轄税務署長の免許を受けないで密に酒類を製造することを企て、同月十二日頃肩書住居で氏名不詳の野菜売りの女から買い受けた一斗の米のうち幾分を食事用に残した残余の部分を二回にわけてふかし、他の男から買い受けた米麹約五升を使用して四斗かめ(大蔵事務官嶋津泰造において差し押えた差押番号一)に相当量の水を加えて約その四分の三位の容量として仕込み発酵させ、八月十七日朝に至り右かめの上部の澄んだところを取り出しこれを更に濾過して別の一斗かめ(同三)に入れ水を加え、その一部を一升びん二本(同五、六)にわけ、また、前記四斗かめの方も一部を三斗かめ(同二)に移してそれぞれ多少の水を加え右一升びん二本の分はその日来宅した親族の者において二合宛飲んだ後に同日浜松税務署収税官吏大蔵事務官嶋津泰造等から臨検、捜査、差押をされ、前記四斗かめには濁酒に当るもの三斗三升、三斗かめには同様のもの一斗八升、一斗かめには清酒にあたるもの九升、一升びん二本には清酒に当るもの計一升三合が現存していたことが明らかであり、特に被告人において清酒を何升濁酒を何斗と区別して製造する目的をもつてしたものでない事実も肯認することができる。そして本件のように当初から清酒と濁酒とを区別して製造する目的でなく単に酒類を密造する目的でまず濁酒を製造し、更にその一部に濾過という工程を加えて清酒を製造したというような場合、酒税法上その課税を如何にするかは暫く別論として刑罰法上の観察においては、それぞれが独立別箇の酒類製造の罪を構成すると解すべきものではなく、両者はこれを包括して一罪として処断するのが相当である。(昭和二十八年一月二十八日東京高等裁判所第十刑事部判決時報三巻一号四二頁、昭和二十七年二月二十九日高松高等裁判所第三部判決、高等裁判所判例集五巻二号刑事二九六頁、昭和二十五年八月二十九日札幌高等裁判所判決、同三巻三号刑事三九三頁参照)
従つて、原判決が前記のように二個の事実を認定し併合罪として擬律したのは事実を誤認したか又は法令の解釈を誤り延いて法令の適用を誤つた違法が存するものであつて、この過誤は判決に影響を及ぼすことの明らかなものであるから、原判決は到底破棄を免れない、論旨はこの点において理由がある。
(大塚 渡辺辰 江碕)
(註) 当審の事実認定は、
被告人は、所轄税務署長の免許を受けないで酒類の密造を企て昭和三十年八月十二日頃肩書自宅において米、米麹、水を原料として仕込み発酵させ同月十七日収税官吏に検挙されるまでの間もろみの状態となつたもののうち上澄みの部分を取り出して濾過して水を加えアルコール分平均八度の清酒計一斗七合となし、残りの部分にも水を加えアルコール分十一度位の濁酒約五斗一升となし以て酒類を製造したものである。